【美術展】 「憧憬の地 ブルターニュ展」国立西洋美術館

今回は印象深い作品がたくさんあったので興味持ったのを厳選しました。

まえがき

当時の社会と傾向

1800年代前半、鉄道が開通して屋外写生が盛んになり、印象派が芽生えた。ブルターニュへも気軽に行けるようになり、ブルターニュの自然を描く人が増加(ピクチャレスクツアー)。

その中でブルターニュを異郷として「理想化・定型化」する動きもあり、またそれに反発して荒々しい自然や傍観者の視点から淡々と映した絵画も生まれた。
日本からもフランスに美術を学びに行った画家たちが、ブルターニュで日本人の視点から描いたものもある。

展示会では書かれていないけど鉄道の普及が印象派と観光業に繋がり、ブルターニュでの創作活動に繋がっている。

ブルターニュ地方

元々はケルト人がいて、ケルト系のブルトン語を話す人が一部いる。

Localisation Duché de Bretagne.svg

ピクチャレスク

ピクチャレスクツアー(絵になる風景を地方に探す旅)について調べたら、興味深い記述があったので一旦引用して後ほど考察したい。

1782年に刊行されたウィリアム・ギルピンのピクチャレスクに関する著作がとりわけ重要であるが、こうした美的範疇が成立するに至った背景としてはとくに以下の2点が挙げられる。(1)「美」と「崇高」という美的範疇の体系化。これは当時イギリスで大流行したエドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』(1757)に起因するものであり、ピクチャレスクという美的範疇はしばしば「美」と「崇高」というこの両者との相関関係において論じられた。(2)グランド・ツアーをはじめとする「観光」の普及。ピクチャレスクは、アルプス山脈に代表される具体的な景観との結びつきのなかで経験的に練り上げられていった概念である。 

ーー「ピクチャレスク」 - artscape

以前も何かでエドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』が出てきて知りたいとは思っていたので、これを機に読もうかなと考え中。

I. 見出されたブルターニュ

印象派の人々

展示会の1枚目は、光と大気の描写を追求した印象派の先駆け・ターナー!展示会の1枚目に似合う、大気のもやがかった感じは相変わらずターナーっぽい。

ターナー『ナント』1829年

 

展示会のポスターにも使われているモネの絵。穏やかで暖かい光景海と、荒々しい海で全くタッチが異なる。荒々しい方の海のスケッチでは岩と波が融合して境界があいまいになっていたので、物質の境界線を意識させないような描き方だなと思った。

クロード・モネ『ポール=ドモワの洞窟』1886年

シニャックめちゃ好き。スーラの分割筆致の他に、ターナーの影響も受けていると説明文に書いてあって、確かに!(光の具合がそれっぽい)と思った。シニャックは海やヨットが好きらしい。下の方は鉛筆と水彩のシンプルな絵だけどこの絵もかなり好き。

ポール・シニャックポルトリュー、グールヴロ』1888年

ポール・シニャック『グロワ』1920年代?

ルドン

普通の風景画も描くんだ?と思ったけど、他の人が海や人々を描いているのに対して薄暗い中にある謎の岩を選ぶのがルドンっぽさ出てる…。ブルターニュについて「私の国ではない、ここでは悲しくなる。」って書いたらしい、確かに言ってそう。もう一つ寂しげな家の絵も印象的だったけど、題名が「風景(landscape)」だから全然画像が見つけられなかった。

ルドン『薔薇色の岩』1880年

商業デザイン

自然と人々の生活が描かれているブルターニュへの鉄道ポスター。現代の観光ポスターにも似ているが、どことなく「こういう純朴な人たちの生活見れますよ」感があるようにも見える。

ジョルジュ・ムニエ『鉄道ポスター:「ポン=タヴェン、満潮時の川」』1914年

II. 風土にはぐくまれる感性

ゴーガン

生活苦からブルターニュにはがっつりめに滞在。展示されてる作品数は結構多め、どれも原色の色使いが特徴的。正直ゴーガンの良さはまだよくわからないけど、印象派のように光の照り返しによって見えた風景でもなく、理想化するのでもなく、物質をそのまま描きたいのかなとなんとなく感じた。そう考えると原色をべたっと塗るのも理解できる。

ゴーガン『海辺に立つブルターニュの少女たち』1889年

III. 土地に根を下ろす

浮世絵スタイル

木版画が好きなので、この展示会で一番見たかった作品!アンリ・リヴィエールの他の作品もすばらしかった。西欧の人が試みた木版画作品をテーマにした展示会を開いてほしい。日本人の友達に宛てて書いた手紙も展示されてあった。この後第二次世界大戦で敵国になるのが悲しい。

いろんなところが捨象されているけど空気感が伝わってくるのどかな風景。版画独特の淡い色合いが素晴らしい…。

アンリ・リヴィエール『連作「ブルターニュ風景」より:ロネイ湾』1891年

かわいいおうち

 

「バンド・ノワール

シャルル・コッテ(1863-1925)やエミール・ルネ・メナール(1862-1930)らの「ポスト印象派」の画家のグループを称する言葉である。ギュスターヴ・クールベ(1819-1877)らの「写実主義」のスタイルを継承している画家たちである。主にブルターニュで活動した画家たちで、暗い色調で写実的なスタイルで描くのが典型的なスタイルである。

ーーWikipedia 「バンド・ノワール

なるほどクールベのスタイルを受け継いでいるのか。写真だと暗くて分かりづらいけど、実際見た感想は怖くて、どこにも行けない閉鎖的な村社会っぽさを感じた。展示会前半はキラキラしている作品が多かったので落差が大きい。

シャルル・コッテ『聖ヨハネの祭火』1900年頃

 

シャルル・コッテ『夕べのミサ』1902年頃

ドラクエのこいつ思い出した。

 

同じバンド・ノワールのメンバーの作品、これは黒っぽいわけじゃないけど、この妙な形の樹がどことなく不気味に感じる。

アンドレ・ドーシェ『樹と流れ』1919年

IV. 日本発、パリ経由、ブルターニュ

色使いが特徴的。俯瞰的にとらえているのが日本画っぽいように見える(実際の遠近法で描くと、川の曲がっているところはかなり小さくなるはず?)。説明でアンリ・マルタンに感化され…と書いてあって、この色は確かにマルタンだ!と納得。

斎藤豊作『夕映の流』1913年

アンリ・マルタンの作品はこちら

hiranolab.hatenablog.com

 

ざっくり感想

同じ地域を描くのにいろいろな手法や視点があったけど、それらの手法に優劣は無くあくまで各自のスタイルを深く追求して、たどりついた境地なんだなと思いました。(つい時代の前後によって、古いものが淘汰されたとか新しく改善されたと思いがちだったので。)どんなスタイルであれそれを極めるのは間違いじゃないし、必然的に鑑賞する側も優劣など考慮せずに自由に見て感じればいいんだなと思いました。

 

展示会詳細

artexhibition.jp

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